かぼちゃほろほろ

フィクションを書きます

2020-01-01から1年間の記事一覧

いつかの、(春に)

四章 春の泊。桜はまだつぼんだまま、人々の期待をシャワーみたいに浴びせられている。海良さんは三年生になり、わたしは変わらず同じ教室へ登校する。新入生たちとは付かず離れずの距離を保ちつつ、昼休みは屋上へと向かう。海良さんは大抵、アルカイック・…

いつかの、(邂逅)

三章 気が付くと二月になっていた。ベージュのコートはわたしを日々包んでくれたけれど、誰もわたしを抱きしめてはくれなかった。寒い。オイルヒーターのある壁際へ席が替わってもなお、わたしの寒さはわたしのもののままだった。 自転車は修理に出す踏ん切…

いつかの、(春待ち)

二章 春を待っている。春はまだ遠い。グラウンドを覆う霜柱を踏みしめるスパイクの音が聞こえる。 わたしは自転車を漕いでいる。氷面をタイヤが滑る。中学まではもっぱら徒歩が移動手段だったから、冬期の移動に自転車を使おうと決めるには少し勇気が必要だ…

いつかの、(幻肢)

一章 この街の冬はちっとも優しくない。誰かの作った物差しによればだいたい北緯三九度に位置するのだと、地球儀を見て知った。日が出ていようが出ていまいが氷点下のままだし、手袋が無ければ外に出る気さえ起きない。そのくせ夏はジメジメとしていやに暑い…

いつかの、

プロローグ この世界には壁がある。目に見える壁、見えない壁、守るための壁、分けるための壁。壁のはじまりは何だったんだろう。自分の土地であることを示すため、あるいは外側の脅威、例えば外敵や自然条件などから私的領域を保護するため、人は壁をつくっ…

壊れないままで

わたしが心に殻を作るようになったのはたしか14歳のころで、さして勉強に精を出さなくてもテストでいい点数が取れると分かったとき、私はゲド戦記を読んでいたのにまわりの友達はライトノベルを読んでいたときのことだった。どちらが高尚だとか低レベルだと…